社内を省エネ活動に巻き込む6つの工夫

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全社を挙げて省エネ活動の取組を始めたのに、いまいち社内が盛り上がらないと、「忙しい中で省エネ活動なんて無理だよな」「省エネに意欲なんて持てないよな」と、つい諦めてしまいそうになります。

しかし、省エネ活動が盛り上がらないのは、「忙しさ」や「意欲」ではなく、「仕掛け」の問題なのかも知れません。

この記事では、関西電力が蓄積している「省エネ活動のコツ」をまとめました。
これまで関西電力は10年以上、1,000件以上の省エネ診断、エネルギーマネジメントを実施してきました。それまでの失敗やノウハウを全て公開します。

掛け声をあげたのは良いものの、その後は「笛吹けど踊らず」になりがちな省エネ活動。
そんな現状を打破する工夫を共有します。

目次
  1. 活動のアピール場所を改善する
  2. するべき行動から「判断」を除く
  3. 行動に対しフィードバックを用意する
  4. ゲームの要素を取り入れる
  5. 上級者への興味の幅を用意する
  6. リーダーを育てる
  7. まとめ

1. 活動のアピール場所を改善する

省エネ活動で目標にすべきなのは、活動を長続きさせることです。
そのために必要なのは、省エネを「習慣」にすることです。

 日常生活に置き換えてみてください。
強い決意や大きな目標で始めた行動、たとえば毎日の運動や勉強が三日坊主で終わったりしませんか。
一方で、手洗いや歯磨きのような行動は意識せずとも気付けば毎日していませんか。

習慣は地味ながら、行動を長続きさせる大きなパワーがあります。

省エネ活動にもこうした習慣のパワーを取り入れることを考えてみて下さい。
そのためには、まず「省エネ活動の取組」の存在に注意を向けてもらうことが必要になります。

一般的な方法が、省エネ活動のスローガンや行動喚起を促すポスターの活用です。
すでに実施して効果がみられなかったとしても、もう一度トライしてみてください。
ただし、今度はポスターを貼る位置をしっかり考える必要があります。

会社の入口に省エネのスローガンを掲げたポスターを貼ったとしても、多くの社員はそれを見ていません。
会社の入口は比較的な開放的な空間でポスターを貼るには適しているように見えますが、従業員にとっては毎日の通過点でしかなく、何ら行動を起こす場所ではないことから注意を呼び覚ましにくいのです。

では、タイムカードのそばにポスターを貼ったらどうでしょうか。
タイムカードは「カードを取り出して、機械に読ませる」という行動を伴います。
毎日繰り返す行動とセットにされたものは習慣化しやすいと言います。

単に「人通りの多いところ」ではなく、従業員の習慣とセットになる場所を切り口に、活動のアピール場所を考えてみてください。

2. するべき行動から「判断」を除く

過去の関西電力の省エネ支援での失敗例で多かったのは、「省エネメニューの表現がわかりにくい」事例です。
たとえば、こんな省エネメニューを提案したことがありました。

「中間期で気候が良ければ空調を切り、窓を開ける」

一見すると当たり前で、誰でもできる行動です。
しかし、ここに落とし穴があります。
まず「中間期」とはいつでしょうか。

4月、5月…6月は中間期?そうではない?

次に、「気候が良ければ」とはどんな状態でしょうか?
気温?天気?そもそも「良い」とは誰が判断するのか。

そうです。
文章で見ると簡単なのですが、実際に行動する時に「今は行動するに相応しい時なのか」判断を伴ってしまうのです。

習慣化のハードルは、まさにこの「判断」の有無です。
歯を磨くときに、いちいち「まず前歯を磨いて、その次に奥歯を…」などと思考・判断する人はいないでしょう。
つまり、省エネ行動を習慣に変えるには、行動から「判断」を取り除く必要があります。

では、「中間期で気候が良ければ空調を切り、窓を開ける」から判断を除くと、どんな表現になるでしょうか。
まず「中間期」という曖昧な表現を避け、4月なら4月と特定します。
次に「気候が良ければ」も明確に「晴れた日」とします。

「4月の晴れた日は空調を切り、窓を開ける」

これなら迷いませんね。

ちなみに、表現から「判断」を除くことを訓練すると、商談や会議で合意事項がクリアになり手戻りを防ぐ効果があります。

3. 行動に対しフィードバックを用意する

習慣化の初期段階で大切になるのは、自分のした行動へのフィードバックです。
たとえばウォーキングで、歩数や消費カロリーがアプリで見えたとしたらどうでしょう。
ただ歩いて終わるよりも、気分が上がるように思いませんか。
「明日は今日よりも歩いてみよう」と、自発的な目標を立てたりしませんか。

フィードバックは自分の行動が「何らかの見える形に繋がっている」という自己効力感をもたらします。
子どもが自宅学習で1単元終わるごとにシールを1枚貼るのもフィードバックの考え方を用いたものです。
同じように、省エネ行動の回数を蓄積して誰からも見えるようにすることで、習慣化の強化が期待できます。

フィードバックのポイントは二つあります。
ひとつは、できるだけ数字で表現することです。数字で表現すると基準が生まれます。

たとえば部署単位で省エネ行動の回数をカウントすると、普段はどれぐらい省エネ行動できているかの基準が分かります。
すると、「来月はその回数を1.5倍にしよう」などの明確な目標を立てることができ、活動が具体的になっていきます。

もうひとつのポイントは、活動の蓄積を見せることです。
子どもの自宅学習のシールは、学習の蓄積を表現しています。
ある程度の蓄積が進むと、ゴールまでの距離が分かるようになり、あと少しの距離を埋めたくなるのです。

省エネ行動の当月の目標が100回だとして、蓄積が80回に達する頃には飽きが来てもおかしくありません。
しかし、蓄積が簡単に見えるようになれば、「残り20回」を早期に埋めたくなり、活動によりドライブがかかります。

毎日の行動回数というフローと、蓄積のストック。
両者を見せられるようにすることが行動を長続きさせるフィードバックのポイントです。

4. ゲームの要素を取り入れる

省エネの習慣をより楽しく意欲的にするためのコツとして、ゲームの要素を取り入れてみるのはどうでしょうか。

フィットネス施設では機械と画面を組み合わせて、運動する人同士で競争させて熱中度を高めています。
このように、競争の仕掛けを取り入れて、ユーザーの熱中度を向上させる仕組みを「ゲーミフィケーション」といいます。

ゲーミフィケーションはモチベーション向上やネットワーキング促進の有効策として、近年注目されている手法です。
具体的には、フィットネス施設のような利用者同士の競争に加え、アイテムの獲得やレベルアップなど、まさにテレビゲームの世界の要素を現実世界にも取り入れる仕組みです。

省エネ活動への適用で考えると、たとえば省エネ行動の回数を社内でランキング化してみてはどうでしょうか。

従業員間で健全な競争心が生まれ、より積極的な活動に変化していく可能性があります。
あるいは一定数の回数を超えた人を「上級者」と認定するレベルアップの仕組み取り入れるのも効果的です。

効果的なゲーミフィケーションを実装するにあたり、「バートルテスト」という手法があります。
これはゲームに熱中する動機が人それぞれであり、多くの従業員を巻き込むために、より相応しいゲームの仕組みを考えるためのフレームです。

バートルテストはゲーミフィケーションだけでなく、従業員の適性業務の検討にも活用できるフレームです。

また、ゲーミフィケーションは先ほどのフィードバックと組み合わせて取り入れると、より効果的になります。
フィードバックは個人に対しての結果開示、ゲーミフィケーションは全体に対しての結果開示とも言えます。

5. 上級者への興味の幅を用意する

省エネ活動をはじめてしばらく経つと、積極的な人とそうでない人に分かれていきます。
ゲーミフィケーションで触れたように積極的な人を「上級者」として認定するとしても、それだけでは上級者自身がマンネリになり、いずれ飽きて活動は停滞していくでしょう。

省エネ活動を定着させるには、上級者のコミットを保ちつつ、上級者が積極的に周囲に活動を促すサイクルを作ることが大切です。
そこで、上級者が周囲に「話したくなる」コンテンツを考えてみます。

現在では、スマートメーターの普及により、電力の使用量が30分単位で把握できるようになっています。
30分ごとの使用量を時系列に追っていくと、時間帯ごとに使用が増えたり減ったり、波のような軌跡を描くことが知られています。

省エネ活動の結果、消費エネルギーにどんな変化があったか。
そもそも消費エネルギーはどのぐらいなのか。
日によって、天気によって、時間によって、どんな変化があるのか。
それが分かれば、明日はどんなエネルギーの使い方になるのか。
興味の幅が広がっていきます。

こうしたエネルギーの消費実態を上級者が理解し、豆知識のように周囲に話したくさせるよう、興味の幅を用意してあげるのが肝心です。

上級者を集めた勉強会などで、会社のエネルギー使用実績を共有し、過去との比較から省エネの効果把握や改善点などを議論すると知識習得が進みます。
このあたりはエネルギー会社が専門家ですので、契約先の電力会社を勉強会に巻き込むのも有効な方策です。

6. リーダーを育てる

ここまでの取組を経れば、社内の省エネ活動が定着し始めている頃です。
しかし、往々にして起こるのは活動定着が一握りの部署に留まり、全社的な取組に昇華しないことです。
せっかく芽生え始めた省エネ活動の定着を会社の広い範囲に影響させるにはどうすれば良いのか。

そのために6つ目の工夫、省エネ活動のリーダーを育てることが必要です。

社内の上級者を中心に活動リーダーを選定し、全社の先頭に立つ役割を担ってもらう。
ここから省エネ活動の所管部署の役割は省エネ活動の企画運営から、リーダーのサポートに変化していきます。
もともとの目標は社内を「巻き込む」こと。
巻き込むとは、影響力を行使するということです。
まさに、リーダーの仕事といえるでしょう。

リーダーは一人に絞る必要はありません。
部署単位でも、任意のチーム単位でも構わないので複数人選任して、リーダー同士で情報交換したり高め合ったりできる場を作ることが大切です。

こうした特定の活動の普及浸透を担う役割を、近年ではエバンジェリストと呼んでいます。
「伝道者」の意味で、特にIT業界でクライアントだけでなく自社の社員にテクノロジーやトレンドを説明・啓蒙する人材です。

実は、関西電力の省エネ支援で決定的に不足していたのが、このエバンジェリストの存在でした。
省エネは誰が見ても良いことですし、やらなければならないことです。
けれども、なかなか自分事にならず、誰も率先してやろうとしない。

子どもの頃、親や教師から「勉強しなさい」と言われるほど勉強したくなくなる経験があったでしょう。
周りの大人が勉強の大切さを説いたところで、半ば強制的に机に向かわせたところで、本人が主体的に取り組めなければ苦役になってしまいます。

エバンジェリストは親や教師ではなく、「生徒」の立場から自身が現在進行形で勉強している経験、難しさや楽しさ、コツやノウハウを含めて、同じ目線で行動を促していきます。
省エネ活動のリーダーには率先して実施した行動の経験を、エバンジェリストとして全社に広げていってほしいのです。

こうした取組は省エネ活動を超え、組織の人材育成にも寄与します。
また、部門横断でリーダーを選任すれば、社内連携も加速し、会社のケイパビリティを向上させる効果も期待できます。

7. まとめ

ここまで、社内を省エネ活動に巻き込む6つの工夫を紹介しました。

1. 「活動」から「習慣」に変える
2. するべき行動から「判断」を除く
3. 行動に対しフィードバックを用意する
4. ゲームの要素を取り入れる
5. 上級者への興味の幅を用意する
6. リーダーを育てる

いずれの工夫も、省エネの内容そのものではなく、活動の担い手である従業員の活動への印象・行動変容を意図しているのがポイントです。
活動が思ったように浸透しない時、ついつい「もっと強く働きかけよう」「トップダウンで指示しよう」と考えがちです。

しかし、真に必要なのは「どうすれば活動が従業員の日常に溶け込めるか」を考えることなのです。
これは省エネに限らず、組織のあらゆる活動・仕事で必要な観点になります。

そうは言っても、6つの工夫を始めるにあたり、具体的な施策にどう落とし込んでいくかが不安な場合があります。

関西電力では、省エネ活動の6つの工夫をひとつのツールにまとめたエネルギーマネジメントサービス・エナッジを提供しており、これまで5,000以上の事業所で省エネ活動にご活用いただいています。
省エネ活動の定着にお悩みの方は、ぜひ関西電力にご相談ください。

▼▼▼ エナッジの紹介はこちら ▼▼▼
https://sol.kepco.jp/enudge/


※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2022年6月時点の情報に基づき作成しております。


この記事を書いたメンバー

林 直人

愛知県出身。趣味は読書、音楽制作、ウェブデザイン、スケボー、NPOの事業支援。大阪公立大学非常勤講師。お仕事は法人営業で、お客さまの電力契約から再エネ導入、省エネ活動、新規事業共創まで幅広く活動しています。このサイトは僕たちの「こんな記事があれば、脱炭素も面白く感じられるよね」から始まりました。仕事に、ブログに、日々奮闘する関電社員の姿をご覧ください。

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