いま、脱炭素のグローバルルールが変わろうとしています。
2023年11月、GHGプロトコルがscope2のガイダンス改定の方向性について公表しました。
GHGプロトコルとは、企業の温室効果ガス (GHG) の排出量を算定・報告する際の国際的な基準です。
また、scope2とは企業の「他社から供給された電気、熱、蒸気を使用した事による間接排出の温室効果ガスの排出量」を示します。
分かりやすく言えば「系統電力の消費に伴う温室効果ガス排出量」です。
つまり、電力消費の温室効果ガス算定ルールに、何らかの改定がなされようとしているのです。
*参考:GHG protcol; Detailed Summary of Survey Responses on Scope 2 Guidance >> こちら(外部サイト)
1. 電力消費の脱炭素化のルール
現在のscope2の規定では、系統電力のCO2削減に非化石証書の使用を認めています。
火力発電など化石電源が混在している系統電力を消費しても、非化石証書の調達により、CO2排出量を減じることができます。
たとえば、年間で10,000,000kWhの電力消費をする工場があるとします。
この電力を関西電力から調達しているとすれば、電力消費した企業はCO2を4,340ton/年を排出していることになります。
(マーケット基準; 関西電力2022年度実績 調整後排出係数 0.434kgCO2/kWhで算出)
ここで、非化石証書を電力消費量と同じ量だけ購入すれば、CO2排出量はゼロとカウントされます。
この非化石証書のゼロエミッション価値を、「実質再エネ」と呼んでいます。
実際に消費している電力は発電時にCO2を排出していても、証書により実質的にゼロとみなすことができるということです。
非化石証書は、太陽光などの再エネ電源への投資が難しい企業にとって、利便性の高いCO2削減方法といえます。
*参考:非化石証書について、詳しくはこちら (関西電力法人向けソリューションサイト)
2. scope2ガイダンス改定の論点
GHGプロトコルでは、このような非化石証書の実質再エネ価値が認められています。また、RE100においても、条件付きで非化石証書を活用できます。
(非化石証書が由来する電源が竣工15年以内等の条件)
一方で、scope2ガイダンス改定の論点をみると、やや雲行きが怪しくなっています。
ガイダンス改定の論点を表1に示します。
表1 GHGプロトコルscope2ガイダンス改定の主な論点
現在のCO2排出量報告は年単位であり、非化石証書も年間の調達量で評価されます。
この年単位の算定を、月単位や日単位に、あるいはもっと細かく「時間単位」にするという提言が「算定期間・単位の厳格化」です。
これは、再エネ電力の発電と企業の電力消費を、1時間単位で需給マッチングさせることを意味しています。
現在の非化石証書を用いた実質再エネは、何時に発電された再エネ電力かは分かりません。
つまり、scope2ガイダンス改定により、これまでの非化石証書による手法では不十分になる可能性があるのです。
3. 再エネにもたらされる同時同量 hourly matchingの概念
この再エネの発電と企業の電力消費の1時間単位での需給マッチングは、hourly matching (アワリーマッチング)と呼ばれています。
scope2改定により、再エネ要件が厳格化され、hourly matchingが要求される可能性があります。
それにしても、なぜhourly matchingのような厳格な規定が浮上しているのでしょうか。
それは、再エネの普及拡大が深刻な問題をもたらしているためです。
そもそも電力という財は貯蔵が困難であり、生産と消費を同時に行わなければならないという特殊性があります。
街中の電力消費は時々刻々と変化します。
この消費に対し、電力の供給が多すぎても少なすぎても、電力系統の品質は維持できないのです。
従来では、この需給バランスの調整は火力発電の投入燃料の調整等で行ってきました。
こうした電源は人為的に発電量をコントロールできるため、電力需要に応じて調整が効きます。
一方、多くの再エネは太陽光や風力という自然任せであり、人為的にコントロールできません。
こうした電源を変動性再エネ(VRE; Variable renewable energy)といいます。
VREが大量に接続された結果、時期によっては需要を超える電力が創出され、電力系統の品質維持を難しくさせています。
結果的に「出力制御」と呼ばれる、VREの発電量を強制的に抑制する手法がとられる場合が出てきています。
電力の生産と消費のバランスが取れないため、仕方なくVREの生産量を抑制せざるを得ない状態ということです。
hourly matchingという概念の提唱は、こうした需給マッチングを電力消費する側も真剣に考えねばならないという警鐘でもあります。
非化石証書の利用では需給マッチングに対応できず、今後の企業の脱炭素施策に影響を及ぼす可能性があります。
4. 今後の対策|浮上するコーポレートPPAの価値
こうした環境下で高い価値を示しているのが、コーポレートPPAです。コーポレートPPAの主たる手法は、企業専用の再エネ電源からの電力を同時同量で企業に供給する「フィジカルPPA」です。(図1)
図1 フィジカルPPAのスキーム
その上で、年間を通じ、どの時間でも再エネの供給と企業の電力需要のマッチングができるよう設計します。(図2)
図2 時間単位の再エネ需給マッチング
(再エネ電力を施設1、2、3の順で消費する例)
この方法であれば、hourly matchingに対応した再エネ調達が可能で、新時代のルールに沿った施策となるでしょう。
いわば、SDGsにある「つくる責任、つかう責任」を再エネ分野で果たすような枠組みです。
関西電力では、これまでフィジカルPPAにより、同時同量の再エネを企業のみなさまにお届けしてきました。
脱炭素のルール変更や具体的対策にお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
■関連記事
コーポレートPPAの解説記事はこちら
コーポレートPPAのインタビュー記事はこちら
■フィジカルPPA事例
コーポレートPPAによる日本生命への太陽光発電開発・電力供給の実施
~再エネECOプランと組み合わせた実質再エネ100%は当社初~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2022/pdf/20220927_1j.pdf
コーポレートPPAによるJR西日本への再生可能エネルギー電力供給の実施
~大阪環状線およびJRゆめ咲線運転用電力が実質再エネ100%に~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2023/pdf/20230619_2j.pdf
双日およびJR西日本とのコーポレートPPA実施の合意
~再エネ由来の電力供給と環境価値提供を組み合わせた国内最大規模の取組み~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2023/pdf/20231214_1j.pdf
EREおよびJR西日本とのコーポレートPPA実施の合意
~山陽新幹線への再エネ由来の電力供給~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2024/pdf/20240524_1j.pdf
コーポレートPPAによる阪急電鉄および阪急阪神ホテルズへの再生可能エネルギー電力の導入について
~宝塚大劇場・宝塚ホテルの電力が実質再エネ100%に~
https://www.kepco.co.jp/corporate/notice/notice_pdf/20240628_1.pdf
※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2024年7月時点の情報に基づき作成しております。