FIP 再エネ主力電源化の秘策

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近年、再生可能エネルギーの持続的な利活用手法としてFIP制度 (Feed-in Premium) が注目されています。

我が国では再生可能エネルギーの普及施策として、FIT(固定価格買取制度)が採用されてきました。
実際、2012年の制度導入以来、太陽光や風力発電の導入量が急速に拡大しています。
しかし、その成功の裏で、いくつかの課題が浮き彫りになってきました。

FITに代わる形で導入されたFIP制度は、社会課題解決と再エネの持続的な普及の両立を目指しています。
本記事では、FIP制度とは何か、その仕組みやメリット、企業が取り組むべきポイントについて解説します。

再生可能エネルギーを取り巻く変化を理解し、次の一手を考えるきっかけになれば幸いです。





目次
    1. 再エネ普及拡大の歴史と、顕在化した社会課題
    2. FIPの価格メカニズムの特徴
    3. FIPによる再エネ主力電源化に向けた方策
    4. FIPプレミアム算定手順
    5. FIP転の成否を握る蓄電池
 

1. 再エネ普及拡大の歴史と、顕在化した社会課題

FIP制度はFITにより顕在化した再エネの社会課題解決を図る経済手段です。
具体的には、以下の3つの変化をもたらします。

(1) 出力制御等の需給バランスの改善
(2) バランシング義務による系統調整力の向上
(3) コーポレートPPAとの組み合わせ等、多様な再エネ利活用手段の提供

総じて、FIPは我が国の再エネの主力電源化、再エネの「独り立ち」を促す制度といえます。
国ではFITからFIPへの移行を期待し、補助金や出力制御の後段化といった施策を打ち出しています。
その経緯と、上述の3つの変化について、順を追って見ていきましょう。

我が国の再エネ導入はFIT制度が牽引役となり、発電事業者主導で拡大が進んできました。
FITは再エネ電力の使い手となる需要家を必要とせず、送配電事業者 (過去は小売電気事業者) が固定価格で買い取ります。
事業予見性が高く、ファイナンスが容易な環境が整備され、再エネ電源が競うように開発されてきました。

一方、現在では系統需給バランス維持の難化や、再エネ賦課金高騰による国民負担の増加が顕在化しています。

そこで、FITに代わり2020年代より台頭したのが需要家主導による再エネ導入手法です。
コーポレートPPA1)と呼ばれる、需要家専用の再エネ電源を開発し、その電力を需要家自身が使用する枠組みです。
これにより、電力の需給バランスは需要家により担保、国民負担を要しないスキームが完成しました。

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再エネ普及拡大の歴史をまとめると、図1のようになります。

図1 我が国の再エネ普及拡大の歴史

コーポレートPPAは需給バランスや国民負担といった社会課題の解決に資する取組です。
ただし、すでに投資済みのFIT電源は事業期間終了までは課題を引きずったままです。
特に、近年では需給バランス維持のために強制的に再エネ発電を抑制する「出力制御」が増えてきました。

このため、投資済みのFIT電源に対する改善アプローチが必要となります。
これがFITからFIPへの移行、いわゆるFIPです。


2. FIPの価格メカニズムの特徴

なぜ、FIP転によりFITが生んだ社会課題の解決に繋がるのか。
そのためには、FITFIPの違いを抑えておかなければなりません。(図2)


図2 FITとFIPの違い

ポイントは、卸電力市場との関係です。
FITは市場価格とは無関係に固定価格での買取を保証していました。
これに対し、FIP制度による収入は、市場価格に一定のプレミアムを加えた総額となります。
同じ再エネ発電でも、市場価格の高い時間帯に売電した方が収益が大きくなる設計となっています。

さらに、FIPプレミアムにはもうひとつ、市場価格と連動する仕組みがあります。
それが「調整後プレミアム」です。

FIPプレミアムは、市場価格が最低価格0.01円/kWhとなった時間帯には支給されません。
その代わり、その時間帯に付くはずだったプレミアムが別の時間帯に上乗せして支給されます。 (図3)
元々のFIPプレミアムに0,01/kWhの時間帯の分が加算された価格を、調整後プレミアムと呼びます。

図3 FIP調整後プレミアム


なぜ、こんな複雑な操作をするのでしょうか。
それは、卸電力市場価格が電力の需要と供給の関係で決定されているためです。
市場価格が低いということは、需要に対して供給が余っているということ。
最低価格0.01/kWhの時間帯は、太陽光をはじめ再エネ電力が需要を上回るほど大量に供給されている状態が示唆されます。


図4 卸電力市場の価格約定メカニズム

出力制御はこうした時間帯に多く発生します。
したがって、FIPは市場価格を反映した価格メカニズムにすることで、需給バランスの改善を意図しています。
これが、冒頭の3つの変化のうち、(1) 出力制御等の需給バランスの改善です。
再エネ発電事業者は0.01/kWhを避けた時間帯に売電することで、多くの収益を得ることができます。


3. FIPによる再エネ主力電源化に向けた方策

FIPは価格メカニズム以外にも需給バランス改善を後押しする制度枠組みがあります。

(a)バランシング義務の履行
バランシングとは、毎日の30分単位での発電計画の策定と、実際の発電量を計画値と一致させる計画値同時同量の履行義務です。
こうしたバランシングがFITでは免除されていたのですが、FIPでは履行義務が課されます。
実務は再エネアグリゲーターと呼ばれる、バランシング業務の代行者に委託されるケースが多いでしょう。

バランシングはFIT以外の発電事業者には等しく課されています。
FIP移行とともに「当たり前の義務」を再エネにも課すことで、再エネの「独り立ち」と主力電源化を図っています。
これは、3つの変化の (2) バランシング義務による系統調整力の向上に当たります。
なお、FIPにはこのバランシングの金銭的支援が含まれています。

(b)再エネ利活用用途の多様化
FITの電力利用用途は送配電買取に限定されています。
また、環境価値は全て再エネ価値取引市場にて、小売電気事業者や需要家に再販されます。
再エネ価値取引市場での収益は国民負担抑制の原資に用いられ、発電事業者の収益にはなりません。

しかし、FIP制度では電力の販売先を市場の他、小売電気事業者も選択できます。
また、環境価値の帰属も発電事業者にあるため、自ら非化石証書の販売先も選択できます。
このため、FIPプレミアムを得ながらコーポレートPPAを組成したり、電力は市場売電しつつ環境価値を需要家に販売するバーチャルPPAを組成することも可能です。

こうした再エネ利活用先が増えることで、FITよりも多様な収益モデルが期待できます。(図5)
3つの変化の (3) コーポレートPPAとの組み合わせなど、多様な再エネ利活用手段の提供です。


図5 多様な再エネ利活用手段

 

4. FIPプレミアムの算定手順

ここまで、FIPの特徴を見てきました。
ただし、実際にFITよりも収益が大きくなる可能性がなければ、FIP転は促進されません。
ここからは実際にFIPFITに比べてどの程度アップサイドがあるか、見ていきましょう。

それにはまず、FIPプレミアムの算定が必要です。



図6 FIPプレミアムの算定手順
(出展:資源エネルギー庁)


FIPプレミアムの算定式 (調整前) は「基準価格+ (当月の参照価格+非化石価値相当額-バランシングコスト) 」です。 
ただ、図6に示すとおり、算定までには段階的なステップを踏むことが分かります。

順にみていきましょう。


  1. 当月の参照価格
    参照価格の算定手順は複雑なステップを踏みますので、今回は仮の数字をもとに試算してみます。
    前年度平均市場価格 8.00円/kWh …①
    当年度当月平均市場価格 6.00円/kWh …②
    前年度当月平均市場価格 10.00円/kWh …③

    当月の参照価格=前年度平均市場価格+ (当年度当月平均市場価格前年度当月平均市場価格) です。
    これは前年度の平均価格をベースに、で当月の価格差を補正していると考えてください。
    式に代入すると、当月の参照価格は4.00/kWh…④となります。
  2. 基準価格
    FIP転では、FIT価格をそのまま基準価格とします。
    今回はFIT買取価格24/kWhの再エネ電源のFIP転を考えます。
    FIP基準価格はそのまま24/kWh…⑤です。

  3. 当月の調整前プレミアム単価
    残るは非化石価値相当額、バランシングコストです。今回は、こちらも仮の数字を設定します。
    ・非化石価値相当額 0.60/kWh …⑥
    ・バランシングコスト 0.80/kWh …⑦

    調整前プレミアム単価は、⑤基準価格- (④当月の参照価格+⑥非化石価値相当額-⑦バランシングコスト) で算出されます。
    式に数値を入れると、調整前プレミアム単価は、24- (4.000.600.80) = 20.20/kWh…⑧となります。

    FIT価格 24円/kWhに対し、FIP転すると市場収益+20.20円/kWhです。
    市場収益次第とはいえ、これぐらいのアップサイドではFIP転する強力なインセンティブにはなりません。
    そこで、カギになるのが前述した調整後プレミアムです。

  4. 調整後プレミアム
    調整後プレミアムは市場価格が0.01/kWhの際に不交付となるプレミアムを、それ以外の時間帯に割り振る仕組みです。
    算定には、各エリア送配電会社が公開する当月の電源別エリア全体実績と、0.01/kWhコマを除いた実績を用います。
    なお、0.01/kWhコマについては、JEPXのウェブサイトからエリア別の約定価格実績をダウンロードして求めます。

    ・当月の電源別エリア全体当月実績 1,000GWh/月…⑥
    ・当月の電源別エリア全体当月実績(0.01/kWhコマ除き)490GWh/月…⑦

    調整後プレミアムは、調整前プレミアム×⑥当月の電源別エリア全体当月実績÷⑦当月の電源別エリア全体当月実績 (0.01/kWhコマ除き) で求められます。
    式を変形すると、調整後プレミアム×⑦当月の電源別エリア全体当月実績 (0.01/kWhコマ除き) = 調整前プレミアム×⑥当月の電源別エリア全体当月実績になります。
    つまり、調整後プレミアムとは、当月のプレミアム総額が0.01/kWhコマを除く再エネ電力量のみに換算するといくらになるかを示したものと言えます

    調整後プレミアム=20.20×1,000÷49041.22/kWh



図7 FIPプレミアム算定結果の全体像

いかがでしょうか。
FIT価格24/kWhに対し、調整後プレミアムでは市場価格+41.22/kWhが収入総額となります。
たとえ市場価格が低くても、FIT収入を上回る収益が期待できます。
これならFIP転の検討は視野に入ってくるのではないでしょうか。

5. FIP転のカギを握る蓄電池

FIPは、調整後プレミアムの効果により、FITに比べ収益アップサイドの可能性があることが分かりました。
留意が必要なのは、全ての発電電力にこのプレミアムが付くわけではないことです。
繰り返しになりますが、プレミアム対象はあくまで0.01/kWhの時間帯以外の電力という点を忘れてはいけません。
いかに0.01/kWhの時間帯を避けた発電ができるかが、FIP転の収益性に関わってきます。

ただし、当然ながら、自然変動電源である再エネの発電時間はコントロールできません。

そこで重要なのが、蓄電池です。
FIP転の際に設置される蓄電池は、再エネ併設型蓄電池と呼ばれています。
0.01円/kWhの時間帯には蓄電池に充電、それ以外の時間帯に放電することで、プレミアム対象の電力を増加させます。
FIP転プレミアムの収益を最大化するためには、蓄電池の充放電を市場価格に応じて最適にコントロールすることが肝要です。

電力の需給バランスの観点では、蓄電池はこれ以上電力を必要としない時間帯での発電を避け、電力が必要な時間帯にタイムシフトしています。
つまり、蓄電池によるFIPプレミアム収益の最大化が、同時に需給バランス改善に寄与することになります。
ゆえに、FIP は収益と再エネ電力のタイムシフトによる社会課題解決を両立した制度と言えます。 (図8)

この効果を期待し、国は補助事業により再エネ併設型蓄電池の設置を後押し、FIP転を支援しています。
令和6年度予算再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業


図8 FIP転+蓄電池の収益アップサイドの例 (基準価格40円/kWh、5MWの事例)


関西電力では、FIP転の事業性検討や蓄電池サービス、再エネアグリゲータ機能の提供、コーポレートPPA等の事業モデル構築を支援しています。
ぜひ、お気軽にお問合せください。

 

※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2025年2月時点の情報に基づき作成しております。

この記事を書いたメンバー

林 直人

愛知県出身。趣味は読書、音楽制作、ウェブデザイン、スケボー、NPOの事業支援。大阪公立大学非常勤講師。お仕事は法人営業で、お客さまの電力契約から再エネ導入、省エネ活動、新規事業共創まで幅広く活動しています。このサイトは僕たちの「こんな記事があれば、脱炭素も面白く感じられるよね」から始まりました。仕事に、ブログに、日々奮闘する関電社員の姿をご覧ください。

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