1. HOME
  2. メディア
  3. 学びたい!
  4. バーチャルPPA 時空を越える再エネ
学びたい!

バーチャルPPA 時空を越える再エネ

記事公開日:2025/10/21

自社の脱炭素を考えていくうえで、避けられない再エネ電力の調達。
自社での太陽光発電の設置、非化石証書メニューの採用、コーポレートPPAによる再エネ電源調達、その手法は多様です。

しかし、実際には、再エネ電力の調達には多くの課題があります。
・都市部のオフィスビルや商業施設、賃貸工場では、屋上や敷地に太陽光パネルを設置できない
・フィジカルPPAでは供給される再エネ電力を年間を通じて消費しきれない
・非化石証書は将来的な高騰リスクがあり、安定的な環境価値調達に不安がある 

こうした状況の中で注目されているのが、バーチャルPPAVirtual Power Purchase Agreementです。

バーチャルPPAは、特定の再エネ電源から電力そのものではなく、「環境価値」のみを取引する契約形態であり、実際の電気の供給を伴わない点が特徴です。
欧米ではすでに主流の再エネ調達スキームとして広く普及しており、日本でもFIP制度(Feed-in Premium)の導入をきっかけに関心が高まっています。

 

1. バーチャルPPAのしくみ

バーチャルPPAは、再エネ発電事業者が発電電力を市場に売電し、環境価値のみを需要家に販売する取引形態です。
非化石証書をカーボンクレジットのように扱っているとも捉えられます。

発電事業者からみると、この取引形態は収入が電力市場価格の変動に左右されるため、事業収支見通しが不安定になります。
そこで、バーチャルPPAではこの電力市場価格の不安定性を、非化石証書と引き換えに需要家が支える仕組みとしています。
具体的には、需要家が「契約価格」と「電力市場価格」の差額を精算することで、発電事業者からはあたかも一定の契約価格で取引する効果を得ます。
これを差金決済(CfD; Contract for Difference)といいます。(図1


図1
 CfDの概要



契約の流れ
1.発電事業者は、発電した電力を市場で販売し、電力市場価格で収益を得ます。
2.需要家は、発電事業者と「契約価格(Strike Price)」を設定し、契約価格と電力市場価格との差額を精算する契約を締結します。
3.差金決済の仕組み
 - 市場価格が契約価格より高い場合:発電事業者が需要家に差額を支払います。
 - 市場価格が契約価格より低い場合:需要家が発電事業者に差額を支払います。

この差金決済によって、発電事業者は売電収入の安定化を図ることができ、需要家は発電事業者から環境価値を取得します。
需要家はこれをもって再エネ電力を使用したとみなすことができ、Scope2排出削減やRE100対応に活用することが可能です。
契約期間は10〜20年と長期にわたり、発電事業者にとっては新規電源開発の資金調達の裏付けとなり、企業にとっては長期的な再エネ確保の手段となります。

 

2. バーチャルPPAのメリット

(1) フィジカルPPA導入の難しい施設で導入できる
バーチャルPPAは、施設の敷地外で開発される再エネ電源から環境価値を受け取るため、屋根や敷地に発電設備を設置できない施設でも導入可能です。
この特徴はフィジカルPPAでも同様ですが、フィジカルPPAでは再エネ電力を余剰なく同時同量で消費する必要があります。 (図2
したがって、土日休みのオフィスビルや学校では、フィジカルPPAの導入が困難でした。
しかし、バーチャルPPAは再エネ電力自体を消費するわけではないので、この問題をクリアできます。


図2 フィジカルPPAの同時同量による制約


 (2) 大量の環境価値が入手できる
同時同量の制約のないバーチャルPPAでは、たとえば昼に太陽光発電で生成された環境価値を、需要家の夜の消費電力に充当することも可能です。
したがって、需要家の消費量が年間単位で発電量を上回っていれば、全ての環境価値を入手することができます。

このため、大規模なメガソーラーや風力発電といった、フィジカルPPAでは選択肢に入り難かった再エネ電源も視野に入ることになります。
複数拠点を持つ企業や、グループ全体で脱炭素を進めたい企業にとって、拠点ごとに小口で証書を購入するよりも効率的です。

(3) 日本中どこの再エネ電源でも活用できる
再エネ電力の消費が不要であるため、物理的な送電線の制約を受けません。
つまり、需要家企業の立地に関係なく、全国の再エネ発電所と契約することが可能です。
たとえば、関西の企業が北海道や九州の再エネ電源とバーチャルPPAを結ぶこともできます。
この柔軟性により、電力系統の制約やエリアごとの制度差を超えて、最もコスト効率の良い再エネ電源を選ぶことができます。
また、地域間での「再エネ電源の価値共有」にもつながり、地方の再エネ開発を都市部の需要家が支える構図が生まれます。

(4) 将来の非化石証書の高騰リスクを抑制できる
近年、非化石証書やI-RECなどの環境価値の価格は上昇傾向にあります。
特にRE100参加企業の増加により、今後さらに証書価格が高騰するリスクが指摘されています。
加えて、国の議論では非化石市場の上限価格の是非に対し、議論が始まっています。(図3

バーチャルPPAでは長期契約が可能なため、こうした非化石証書市場の変動リスクを抑制できます。
将来的に非化石証書の価格が高騰したとしても、企業は契約当初の条件で環境価値を確保できるため、脱炭素コストの安定化が図れます。
すなわち、バーチャルPPAは「再エネ確保のための長期リスクヘッジ手段」としても非常に有効です。



図3 非化石証書価格に関する議論
(出典:2025年9月25日 再エネ大量導入小委資料


3. バーチャルPPAのデメリット

(1) 市場価格リスクの存在
バーチャルPPAは市場価格に連動するため、市場価格が契約価格を下回る場合には、企業がその差額を発電事業者に支払う必要があります。
そのため、電力市場が下落局面に入るとコストが増加するリスクがあります。
市場価格の変動が大きい昨今、はこのリスクを十分に理解する必要があります。

(2) 会計・法務の複雑さ
バーチャルPPAは、電力市場価格という環境価値と無関係の市場を指標に取引価格が決まるため、金融取引の性格を持ちます。
そのため、会計上はデリバティブ(金融派生商品)取引として扱われる可能性があります。
その場合、公正価値評価や損益変動の開示など、通常の電力購入契約よりも高度な会計処理が求められる場合があります。
導入の際、自社の会計監査法人や会計士の意見を聞くと良いでしょう。

(3) 最新の国際ルールとの整合
バーチャルPPAは国内外において、再エネ調達手段として認められているものです。
ただし、国際ルールは定期的に基準改訂が為されます。
目下、改訂作業が進められているGHGプロトコル scope2では、アワリーマッチング(再エネ電力そのものの1時間単位での発電・消費の一致)の導入が議論されています。
バーチャルPPAは再エネ電力の消費を伴わないことから、アワリーマッチングにどう対応していくかは考えていかなければなりません。


*参考:hourily matching|アップデートされる脱炭素のルール

4. FIPと組み合わせたバーチャルPPA

バーチャルPPAは差金決済により取引されることから、契約価格が比較的高くなる新設電源では、需要家の調達コストが高騰するリスクがあります。
そこで、最近ではFIP(Feed-in Premium)制度とバーチャルPPAを組み合わせるケースが増えています。

FIP制度は、通常の電力市場売電価格に一定のプレミアム(上乗せ額)を加えて発電事業者の収益となります。
この収益により、需要家の負担額を抑制することができ、場合によっては固定価格での取引も可能となります。




図4 
FIP+バーチャルPPA


もともと、発電事業者と需要家の非FIT非化石証書の直接取引は、20214月以降に運開された電源のみに特例的に認められていました。
それが、2025年度からは条件が緩和され、FIP電源は20214月以前のものでも直接取引ができるようになったのです。
この条件緩和により、リーズナブルなFIP電源のバーチャルPPA利用が今後も活発化するでしょう。


*参考:FIP 再エネ主力電源化の秘策

5. まとめ

バーチャルPPAは、再エネ導入をより柔軟かつ大量に実現する手段として、今後急速に普及すると予想されます。
電力の物理的制約を超えて、全国の再エネ電源を活用でき、さらに環境価値を長期的に安定確保できる点は、企業の脱炭素戦略にとって非常に大きな意義があります。

一方で、市場リスクや会計解釈の課題があり、導入に際しては慎重な検討が求められます。
今後はFIP制度との組み合わせにより、これらの課題が次第に解消されると見込まれます。
バーチャルPPAの検討、最新の再エネ調達市況、国際ルールの動向など、関西電力にご相談ください。 


関連記事

コーポレートPPAの解説記事はこちら
コーポレートPPAのインタビュー記事はこちら



※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2025年10月時点の情報に基づき作成しております。


この記事を書いたメンバー

林 直人

林 直人

コーポレートPPAの組成を中心に、国内企業の再エネ調達・脱炭素計画の実行支援に従事。現在はE-Flow合同会社にて、系統用蓄電池や再エネ併設蓄電池のプロジェクト組成、開発、運用を統括。大阪公立大学非常勤講師。
趣味は読書、音楽制作、映像制作、ウェブデザイン、建築探訪、まちあるき。「ゼロカーボンをもっと身近に」をモットーに、取材、執筆、時にはラップに邁進中。

このメンバーが書いた記事を見る


関西電力ロゴ

関西電力のサービス