池からはじまる脱炭素 地産地消のコーポレートPPA
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林 直人
コーポレートPPA
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2024年8月21日、関西電力は新たなコーポレートPPAのプロジェクトを発表しました!
枚方市内におけるコーポレートPPAを活用した再エネ地産地消の取組み
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2024/pdf/20240821_1j.pdf (プレスリリース)
地産地消、官民連携、フロート型太陽光など、気になるキーワードが盛りだくさん。
背景にはどんな思いがあったのでしょうか。
プロジェクトに携わった3名が語り尽くします!
(左) 西川拓己/ソリューション本部 法人営業グループ
(中) 村山貴彦/ソリューション本部 法人営業グループ副長
(右) 林直人/ソリューション本部 法人営業グループ担当部長
1. 官民の力で、地域に良い循環を作りたい
—— 今回のプロジェクトの概要を教えてください。
西川 コーポレートPPAという、再エネの普及拡大施策として近年注目されている手法を用いたプロジェクトです。
簡単にいえば、電気を使う需要家専用の再エネ発電所を建設して、その電気を関西電力が需要家にお届けをする、という取組みです。
今回は、京阪ホールディングス (需要家)、環境資源開発コンサルタント (発電事業者) とプロジェクトを組成しました。
—— 関西電力では、これまでもコーポレートPPAを組成してきました。本件の特徴を教えてください。
西川 大きく3点あって、
①フロート型という、池に浮かぶ太陽光発電の採用
②発電と消費が同じ枚方市内であり「地産地消」の実現
③治水対策のため池を活用した、枚方市との「官民連携」の取組
これらが特徴と言えます。
図1 本プロジェクトのストラクチャー
—— それぞれの利点を教えてください。①フロート型は珍しいですね。
西川 近年、メガソーラーによる森林伐採や自然へのダメージが課題として取り上げられています。
環境負荷の小さい再エネ発電所を作るために、環境に大きな負荷をかけることには疑念がありました。
そこで、本プロジェクトでは、2か所のため池に太陽光パネルを浮かべることにしました。
—— なるほど、土地の造成が不要というのは大きな利点ですね。
西川 このようなフロート型の太陽光は、パネルの温度上昇が抑制され、発電効率が向上するメリットもあります。
発電事業者の環境資源開発コンサルタントは、この分野で高い技術力を有しています。
この技術力により、プロジェクトは大きく前進しました。
—— 続いて、②地産地消についてはいかがでしょうか。
西川 これまでの一般的な電気事業では、電源立地と消費地は遠いことが当たり前となっていました。
広大な土地に大きな発電所を立て、都心部に向けて電気を運ぶ構図です。
それに対して、本プロジェクトでは電源立地と需要地を近接させています。
このような「地産地消」は、エネルギーの効率的利用、防災の観点から有効と考えています。
個人的にも、せっかくの分散型エネルギーの時代なので、今までと違う形にチャレンジしたい思いがありました。
—— 地産地消の成立には、電源立地する地元の協力も必要ですよね。それが③官民連携に繋がっているわけですか。
西川 そのとおりで、まさに地元の枚方市の協力が不可欠でした。
太陽光を浮かべるため池は、枚方市招提土地改良区から「水面貸し」を受けています。
もちろん、地産地消を組成するうえで、地域への貢献も忘れてはいけません。
本プロジェクトでは、太陽光パネルの水面賃料が池の維持管理・修繕費用に活用される経済循環を作り出しています。
—— 売り手、買い手、社会の「三方よし」の仕組みということですね。とはいえ、プロジェクトの実現は簡単ではなかったと思います。
西川 間違いなく、簡単ではなかったです (笑)
大義だけでは事業は成立しません。
「ため池を活用したエネルギーの地産地消」という美しいストーリーを共有できても、それだけでは実現には足りない。
そこに経済合理性も伴って、初めて企業のガバナンスは動くのだと改めて学びました。
—— 具体的に、どのようにクリアしていったのでしょうか。
西川 再エネが持つ経済合理性とは何かを突き詰めていきました。
近年では、電力価格のボラティリティが顕在化しています。
2022年にはロシア・ウクライナ情勢を受け、卸電力市場が高騰し、需要家の電気料金にも大きな影響がありました。
こうした情勢下でも、コーポレートPPAは長期固定価格であり、燃料費や電力市場の影響を受けません。
このような観点から、データサイエンスにより電力価格の将来予測を積み上げ、事業の経済合理性の数値化に努めました。
—— 最後に、西川さんの今後の意気込みについて聞かせてください。
西川 もともと、「官民連携で大きな仕事をする」「地域社会に良い循環を作る」という思いで関西電力に入りました。
だから、このプロジェクトは他の誰でもなく、僕がやるべき仕事でした (笑)
これからも官民連携、公共自治体と民間企業が協力して相乗効果を発揮する仕事を作っていきたい。
環境への配慮と経済合理性を兼ね備えたプロジェクトは、持続可能な社会づくりに不可欠です。
この経験を活かし、さらに多くの地域で価値ある取組を実現していきます。
図2 再エネのリスクヘッジ効果
2. 脱炭素のエージェントとして
—— コーポレートPPAの、電力を消費する需要家にとってのメリットを教えてください。
村山 ①追加性ある再エネの長期安定的な調達、②電力価格変動リスクのヘッジが挙げられます。
—— それぞれについて、詳しく教えてください。
村山 ①追加性再エネは、RE100やCDP等でも重視する姿勢が示されています。
本プロジェクトで、京阪ホールディングスの長期経営戦略に掲げる「地球環境保全の取組み」の一助を担えたととらえています。
②価格変動リスクヘッジは、再エネが非化石電源である特性によるものです。
従来の電源は、化石燃料の高騰、将来の脱炭素化対応で中長期的な値上がりのリスクが懸念されます。
化石燃料は、新興国経済発展による消費量増加で需給がタイトになれば、我が国の電気料金変動に影響するでしょう。
その点、再エネ電源は長期間にわたり固定価格で利用できる点は大きなメリットです。
—— 脱炭素対策、価格変動対策に有効ということですね。
村山 本プロジェクトではそれに加え、③新たな地域とのつながりの創出も大きなポイントです。
我々は小売電気事業者という立場で、発電と需要家の間に介在する「エージェント」のポジションです。
今回、電源立地と需要地が同じ枚方市で、単に「再エネをつくる、つかう」だけではない価値をつくれました。
京阪ホールディングスにとって、枚方市は本店所在地です。
縁の深い場所で「エネルギーの地産地消」を実現できたことは大きな意義を持ちます。
—— 再エネを「つくる、つかう」ことが、地域に新しい繋がりを創出できたのはユニークですよね。プロジェクトは順調に進んだのでしょうか。
村山 全く順調ではなく、足掛け2年間ほどでなかなかの難産でした (笑)
とはいえ、ゆっくり進んだわけではなく、補助金申請や契約関連で、最後までバタバタでした。
—— 2年も!それでは、実現に漕ぎ着けて嬉しいですよね。
村山 7月下旬に設置場所のため池で安全祈願祭が行われ、神主さんに工事の無事を祈祷いただきました。
これまでの道のりは必ずしも順風満帆ではなく、当初の目論見どおりにはならなかったことも色々ありました。
ここまで辿り着けたことに感慨深くなったとともに、力を尽くしてくれた方々に、改めて感謝を感じました。
—— 今回、コーポレートPPAが導入される施設はどんなところなのでしょうか。
村山 京阪グループの象徴的な施設である「ひらかたパーク」、今年度リニューアルを迎えた「KUZUHA MALL」に再エネ電源を供給します。
どちらも枚方市民だけではなく、沿線住民の方から愛されている施設です。
ですので、来場されるお客さまも巻き込んで、盛り上げていきたいですね。
枚方市と一緒に、地域の子どもたちへの環境教育などの広がりも考えています。
—— 村山さんは本プロジェクトのみならず、コーポレートPPAの案件を多く実現させています。
今後さらなる脱炭素に向けて、抱負を聞かせてください。
村山 我が国のCO2排出量の約4割は電力由来です。
電気事業に携わる一員として、少しでも脱炭素の取組みに寄与したいと思っています。
そのために、自社開発の再エネ発電所だけでなく、他社の発電事業者ともオープンに事業共創したい。
合わせて、バーチャルPPAや系統用蓄電池など、プロジェクトのバリエーションを増やしていきたいです。
脱炭素のエージェントとして、お客さまと社会のお役に立ちたいと考えています。
3. 世界基準への適合と、地域社会の参加を促す事業へ
—— 関西電力のコーポレートPPAの取組状況について教えてください。
林 以前の記事*1にも書きましたが、関西電力ではコーポレートPPAの組成を積極的に進めています。
本プロジェクトのように、自治体、発電事業者、需要家とのパートナーシップを組成する「再エネの仲介」は、象徴的なモデルと言えます。
*1 コーポレートPPAの 「中の人」
https://zc-biz.kepco.jp/media/meet/people_inside_corporate_ppa
—— このような取組はこれからも続くのでしょうか。
林 間違いなく続きますし、さらに加速していくでしょう。
新たな再エネを創出する「追加性」に対するニーズは急速に高まっています。
実際、需要家からのコーポレートPPAの要望に電源開発が追い付かず、順番待ちのような状況も散見されます。
こうした動きに呼応するように、世界のルールは追加性再エネの評価を高める方向に動いています。
—— これまでの脱炭素施策の中心となっていたFIT非化石証書では不十分なのでしょうか。
FIT非化石証書は、投資済みの再エネ電源から環境価値が再販されたものです。
また、発電された電力自体を需要家が消費しているわけではありません。
それに対し、コーポレートPPAは新規投資による再エネ電源の環境価値で、電力自体も需要家が消費します。
FIT非化石証書とコーポレートPPAは質的に異なるものです。
—— 将来的な再エネの価値基準に対し、本プロジェクトの価値はどういった位置づけでしょうか。
林 将来的な価値基準として、発電・消費の近接性が評価される可能性があります。
本プロジェクトの「地産地消」は、そうした価値基準のひとつの回答になるのではないでしょうか。
また、アワリーマッチング (発電・消費の同時同量)*2も取り沙汰されています。
本プロジェクトは、関西電力が同時同量を担保するフィジカルPPAスキームですので、この点も抑えています。
このように、追加性、近接性、同時同量に適合する、先進的なものに仕上がったと胸を張れます。
*2 hourly matching|アップデートされる脱炭素のルール
https://zc-biz.kepco.jp/media/learn/hourly_matching
—— 再エネ評価の将来見通しも踏まえたプロジェクトということですね。
林 なによりも、池に浮かぶ太陽光、同じ地域の遊園地・ひらかたパークでの消費といった要素が、とてもキャッチーですよね。
今まではコーポレートPPAを組成するにあたり、「もっと地域住民の方々に訴えかける手法はないか」 と悩んでいました。
BtoBで完結しない、BtoBtoCの視点というか…組成したプロジェクトの外側にいる人々にリーチしたい。
本プロジェクトでは、そうした個人的な悩みを払拭できる機会と捉えています。
—— それは新しい挑戦ですね。
林 知恵を絞って、地域住民へのインパクトを作っていきたい。
5月に関係各社が一同に会して、協定書の調印式を実施しました。
その際、ため池の管理者から「プロジェクトの話をしたら、子どもたちがびっくりしていた」と聞きました。
自分たちの仕事が地域の子どもたちの記憶に残るなんて、こんな嬉しいことはないですよね。
地域の環境教育など、色々な場を行政と一緒に思案しているところです。
—— 最後に、今後の意気込みを教えてください。
林 これまで同様、大きな事業を実現したい思いは変わらないけれど…
最近では、脱炭素の取組を広く沢山の人に開かれたものにしていきたい思いが強くなっています。
脱炭素って世界的な社会課題なのに、まだまだ皆が気軽に「参加できる」状態ではありません。
小難しかったり、説教くさかったりする話には、「やかましいよ」 って思いますよね (笑)
世界基準への適合と同時に、「地域社会の参加」 を促す事業をつくっていきたいです。
(左から) (株)環境資源開発コンサルタント/金城義栄 代表取締役、京阪ホールディングス(株)/石丸昌宏 代表取締役社長、枚方市/伏見隆 市長、枚方市招提土地改良区/柿木凱夫 理事長、関西電力(株)/槇山実果 執行役常務ソリューション本部長代理
■関連情報
コーポレートPPAの解説記事はこちら
コーポレートPPAのサービス紹介はこちら (関西電力ソリューションサイト)
■コーポレートPPA事例
コーポレートPPAによる日本生命への太陽光発電開発・電力供給の実施
~再エネECOプランと組み合わせた実質再エネ100%は当社初~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2022/pdf/20220927_1j.pdf
コーポレートPPAによるJR西日本への再生可能エネルギー電力供給の実施
~大阪環状線およびJRゆめ咲線運転用電力が実質再エネ100%に~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2023/pdf/20230619_2j.pdf
双日およびJR西日本とのコーポレートPPA実施の合意
~再エネ由来の電力供給と環境価値提供を組み合わせた国内最大規模の取組み~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2023/pdf/20231214_1j.pdf
EREおよびJR西日本とのコーポレートPPA実施の合意
~山陽新幹線への再エネ由来の電力供給~
https://www.kepco.co.jp/corporate/pr/2024/pdf/20240524_1j.pdf
コーポレートPPAによる阪急電鉄および阪急阪神ホテルズへの再生可能エネルギー電力の導入について
~宝塚大劇場・宝塚ホテルの電力が実質再エネ100%に~
https://www.kepco.co.jp/corporate/notice/notice_pdf/20240628_1.pdf
※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2024年8月時点の情報に基づき作成しております。
この記事を書いたメンバー
林 直人
愛知県出身。趣味は読書、音楽制作、ウェブデザイン、スケボー、NPOの事業支援。大阪公立大学非常勤講師。お仕事は法人営業で、お客さまの電力契約から再エネ導入、省エネ活動、新規事業共創まで幅広く活動しています。このサイトは僕たちの「こんな記事があれば、脱炭素も面白く感じられるよね」から始まりました。仕事に、ブログに、日々奮闘する関電社員の姿をご覧ください。
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