自社の脱炭素を考えていくうえで、避けられない再エネ電力の調達。
自社での太陽光発電の設置、非化石証書メニューの採用、コーポレートPPAによる再エネ電源調達、その手法は多様です。
しかし、実際には、再エネ電力の調達には多くの課題があります。
・都市部のオフィスビルや商業施設、賃貸工場では、屋上や敷地に太陽光パネルを設置できない
・フィジカルPPAでは供給される再エネ電力を年間を通じて消費しきれない
・非化石証書は将来的な高騰リスクがあり、安定的な環境価値調達に不安がある
こうした状況の中で注目されているのが、バーチャルPPA(Virtual Power Purchase Agreement)です。
バーチャルPPAは、特定の再エネ電源から電力そのものではなく、「環境価値」のみを取引する契約形態であり、実際の電気の供給を伴わない点が特徴です。
欧米ではすでに主流の再エネ調達スキームとして広く普及しており、日本でもFIP制度(Feed-in Premium)の導入をきっかけに関心が高まっています。
バーチャルPPAは、再エネ発電事業者が発電電力を市場に売電し、環境価値のみを需要家に販売する取引形態です。
非化石証書をカーボンクレジットのように扱っているとも捉えられます。
発電事業者からみると、この取引形態は収入が電力市場価格の変動に左右されるため、事業収支見通しが不安定になります。
そこで、バーチャルPPAではこの電力市場価格の不安定性を、非化石証書と引き換えに需要家が支える仕組みとしています。
具体的には、需要家が「契約価格」と「電力市場価格」の差額を精算することで、発電事業者からはあたかも一定の契約価格で取引する効果を得ます。
これを差金決済(CfD; Contract for Difference)といいます。(図1)
図1 CfDの概要
図2 フィジカルPPAの同時同量による制約
図3 非化石証書価格に関する議論
(出典:2025年9月25日 再エネ大量導入小委資料)
(1) 市場価格リスクの存在
バーチャルPPAは市場価格に連動するため、市場価格が契約価格を下回る場合には、企業がその差額を発電事業者に支払う必要があります。
そのため、電力市場が下落局面に入るとコストが増加するリスクがあります。
市場価格の変動が大きい昨今、はこのリスクを十分に理解する必要があります。
(2) 会計・法務の複雑さ
バーチャルPPAは、電力市場価格という環境価値と無関係の市場を指標に取引価格が決まるため、金融取引の性格を持ちます。
そのため、会計上はデリバティブ(金融派生商品)取引として扱われる可能性があります。
その場合、公正価値評価や損益変動の開示など、通常の電力購入契約よりも高度な会計処理が求められる場合があります。
導入の際、自社の会計監査法人や会計士の意見を聞くと良いでしょう。
(3) 最新の国際ルールとの整合
バーチャルPPAは国内外において、再エネ調達手段として認められているものです。
ただし、国際ルールは定期的に基準改訂が為されます。
目下、改訂作業が進められているGHGプロトコル scope2では、アワリーマッチング(再エネ電力そのものの1時間単位での発電・消費の一致)の導入が議論されています。
バーチャルPPAは再エネ電力の消費を伴わないことから、アワリーマッチングにどう対応していくかは考えていかなければなりません。
*参考:hourily matching|アップデートされる脱炭素のルール
バーチャルPPAは差金決済により取引されることから、契約価格が比較的高くなる新設電源では、需要家の調達コストが高騰するリスクがあります。
そこで、最近ではFIP(Feed-in Premium)制度とバーチャルPPAを組み合わせるケースが増えています。
FIP制度は、通常の電力市場売電価格に一定のプレミアム(上乗せ額)を加えて発電事業者の収益となります。
この収益により、需要家の負担額を抑制することができ、場合によっては固定価格での取引も可能となります。
図4 FIP+バーチャルPPA
もともと、発電事業者と需要家の非FIT非化石証書の直接取引は、2021年4月以降に運開された電源のみに特例的に認められていました。
それが、2025年度からは条件が緩和され、FIP電源は2021年4月以前のものでも直接取引ができるようになったのです。
この条件緩和により、リーズナブルなFIP電源のバーチャルPPA利用が今後も活発化するでしょう。
*参考:FIP 再エネ主力電源化の秘策
バーチャルPPAは、再エネ導入をより柔軟かつ大量に実現する手段として、今後急速に普及すると予想されます。
電力の物理的制約を超えて、全国の再エネ電源を活用でき、さらに環境価値を長期的に安定確保できる点は、企業の脱炭素戦略にとって非常に大きな意義があります。
一方で、市場リスクや会計解釈の課題があり、導入に際しては慎重な検討が求められます。
今後はFIP制度との組み合わせにより、これらの課題が次第に解消されると見込まれます。
バーチャルPPAの検討、最新の再エネ調達市況、国際ルールの動向など、関西電力にご相談ください。