みなさま、こんにちは。関西電力 ゼロカーボンソリューションGの小林と申します。
私は法人のお客さまへのゼロカーボンに関するコンサルティング、お客さまのニーズを踏まえたゼロカーボンソリューションの開発を行っています。
1. スコープ1~3とは
スコープとは、事業者の温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告の仕方を定めた基準であるGHGプロトコル※において、算定する「範囲」を定義したものであり、下図の通りスコープ1~3、3つの範囲に分けて算定することになっています。
※本記事では、GHG Protocol Corporate Accounting and Reporting Standard Revised EditionおよびCorporate Value Chain(Scope 3) Accounting and Reporting Standard を総称してGHGプロトコルとしております。
スコープ1~3の排出量を合計すると、自社の排出だけでなく、自社に関係するあらゆる排出を合計した排出量となり、サプライチェーン排出量とも呼ばれています。
GHGプロトコルは事実上の世界基準となっており、CDP、RE100、SBT、TCFD等※でも使用されています。TCFD対応では気候変動に関する幅広い検討が求められますが、その一つとしてスコープ1~3のGHG排出量の算定、削減検討が必要となっています。東京証券取引所の市場再編に伴い、プライム市場上場会社約1,800社に対してTCFD対応が要請されたことが、スコープ3への注目を高めていると考えられます。
※CDP、RE100、SBT、TCFD等の用語の意味については「気候変動への対応に関する基本用語集」をご参照ください。
なお、GHGプロトコルにおいて自社とは「⾃社グループ」であり「個社」ではありません。グループ大の視点で連結財務報告と同じように考える必要があります。
さて、スコープ3について具体的に見ていきましょう。上図の通り、スコープ3とは、自社の排出であるスコープ1,2以外の間接排出と定義されており、自社が購入した原材料や商品、サービス、資本財等の製造に係る排出や、他の事業者に委託した輸送に係る排出、従業員の通勤や出張に係る排出、販売した製品の使用に係る排出、販売した製品が廃棄される際の排出等、サプライチェーン上流下流のあらゆる排出が含まれています。本記事では詳細には触れませんが、スコープ3は内容に応じて15のカテゴリに分類して扱います。
自社でのガソリン使用量や電力使用量、契約している電力会社等は把握できるでしょうからスコープ1,2は精度高く算定できそうですが、スコープ3はどうでしょうか?
「原材料の製造に係る排出」は原材料を製造している事業者に問い合わせたら教えてくれるでしょうか?「販売した製品の使用に係る排出」はユーザーを探し出して「年間何時間使っていますか?何年後まで使いますか?どこの電力会社と契約されていますか?」とインタビューすることになるのでしょうか?
考えてみるとわかるように、スコープ3の算定は、自社の排出であるスコープ1,2よりもはるかに困難であり、スコープ3は一定の仮定を置いたり、統計的なデータを利用しながら算定することが基本となります。スコープ3の算定精度を高める取組みも始まっていますが、スコープ1,2と同等の算定精度を得ることは難しいと言えます。
2. スコープ3の算定・削減に取り組む意義
スコープ1,2は、地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)に基づく「算定・報告・公表制度(SHK制度)」の対象範囲と概ね一致します。SHK制度では「GHG排出の抑制を図るためには、まず、各事業者が自らの活動により排出される温室効果ガスの量を算定・把握することが基本」と説明されていますが、気候変動対応が待ったなしとなる中、自社の排出削減に対して企業は責任を負うべきだという観点からスコープ1,2の算定・削減に取り組むことには納得性があると考えられます。一方で、自社の排出ではなく、算定が困難で、精度も低いスコープ3、サプライチェーン全体の排出の算定、削減に取り組むことの意義や必要性とは何なのでしょうか?
よく見かける説明としては、以下のようなものがあります。CSR(企業の社会的責任)やESG投資の視点からの説明ですね。
・自社の排出削減だけでは不十分であり、企業はサプライチェーン全体の排出に対して責任を持つべきだ。
・サプライチェーン排出量の算定・削減は社会的に求められているものであり、それらの開示はESG投資につながるものだ。
加えて以下のような説明もあります。
・企業ごとに排出量が大きいスコープ、カテゴリは異なる。まずはサプライチェーン全体に対して算定し、自社について知ることが大事である。
確かに算定してみなければ分かりませんね。事実、多くの業種においてスコープ1,2よりもスコープ3の方が大きくなります。上流排出が多い企業もあれば、下流排出が多い企業もあり、様々です。
他には、リスク管理やビジネス機会の視点、削減取組みの促進といった視点での説明もあります。
・世界中でカーボンプライシングの導入・強化が検討されており、GHG排出が大きなコストとなる時代が迫っている。自社の排出が少なくても、サプライチェーン全体を把握しておかないと思わぬところでコストアップが生じるかもしれない。
・購入する製品のサプライチェーン排出を意識する企業や消費者は増えている。サプライチェーン排出量で考えるようになると、輸送排出の少ない国産製品の魅力は高まる。
・サプライチェーン上で生じた削減は当該1社だけのものではなく、その下流に位置する複数の企業にも波及する。サプライチェーンで考えることにより、他事業者と連携した削減取組みが促進され、自社だけではできなかったGHG削減ができる。
「なるほど」と思えるような説明はございましたか?GHGプロトコルは世界中の事業者、NGO、政府機関など多数の利害関係者の共同活動の結果として作られた基準であるため、GHGプロトコルの中でもスコープ3について様々な意義が語られており、簡潔には示されていません。自社の目線で見て「スコープ3ってこんな意味があるかも」というものが見つかれば、スコープ3に取り組み始める理由としては十分と考えられます。
さて、みなさま、スコープ3がどういうもので、どのように向き合えばよいのか、少し具体的にイメージできましたでしょうか?本記事が一助となれば幸い 。
本記事では、スコープ3排出量の詳細な算定方法については触れませんでしたが、関西電力ではゼロカーボンパッケージとしてスコープ1~3排出量の算定から削減まで、ニーズにあわせてご支援させていただいておりますので、お気軽にご相談ください。
※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2022年6月時点の情報に基づき作成しております。