前編では、省エネ法の概要と省エネ法が改正されるスケジュールや3つのポイントをお伝えします。
1.省エネ法とは
省エネ法とは、正式名称「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」のことで、工場等・輸送・建築物や機械器具等についてのエネルギーを効率的に使用していくことを目的として制定されました。現段階で省エネ法の定義するエネルギーは「燃料・熱・電気」であり、化石燃料または化石燃料由来のものに限られています。
省エネ法によって課される事項としては主に3つあります。
1つ目はエネルギー消費原単位の削減義務です。工場等の事業者全体に対して、設備管理基準の設定やエネルギー消費原単位の年1%以上削減などが課せられます。
さらにその中でも事業者合計の年間エネルギー使用量が原油換算値で1,500kL以上(例:特別高圧 契約電力2,000kWの工場が24時間365日稼働)の事業者は中長期計画、定期報告等が必要です。注意が必要なのは、事業所単体だけではなく、事業者全体での基準という点です。このため、事業所一つ一つは小さな規模でも、多店舗を運営されている事業者が対象になる場合があります。
工場・事業場単位で年度間のエネルギー使用量が1,500kL以上である場合、工場・事業場は、「エネルギー管理指定工場」に指定されます。具体的には、1,500kL以上3,000kL未満の工場を第二種エネルギー管理指定工場、3,000kL以上の工場を第一種エネルギー管理指定工場といいます。
2つ目は、エネルギー管理者・管理員の選任およびエネルギーの使用状況の報告義務です。エネルギー管理指定工場ごとに、下の表のように年間エネルギー使用量(原油換算値kL)に応じて、エネルギー管理者・エネルギー管理員の選任とエネルギーの使用状況等を報告が課せられます。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「省エネ法対応 工場の省エネ推進の手引き」, p.4
3つ目は、エネルギー消費効率の目標の提示及びエネルギー消費効率の表示義務です。特定エネルギー消費機器(下表参照)の製造や輸入事業者等に対して、エネルギー消費効率の目標を示して達成を促すとともに、エネルギー消費効率の表示が課せられます。
目標とする省エネ基準は、現在商品化されている製品のうち、エネルギー消費効率の最もすぐれているものの性能と、技術開発の将来の見通しを総合的に見て定められています。例えば、車両の燃費。車両重量741kg未満の乗用自動車であれば、JC08モードという測定条件下における燃費値が24.8km/Lという基準が設けられています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー消費機器製造事業者等の省エネ法規制」を基に岩永作成
まとめると省エネ法によって課せられる事項は以下の3つとなります。
・事業者:設備管理基準の設定とエネルギー原単位の年1%以上の削減
・エネルギー管理指定工場(年間エネルギー消費量1,500kL以上):エネルギー消費量の定期報
告・改善
・特定エネルギー消費機器の製造事業者等:機器のエネルギー消費効率の目標達成
2.省エネ法改正のスケジュール
省エネ法の改正が予定通り、2023年4月施行になれば、翌年度の2024年度定期報告(2023年実績)より新制度への対応が求められます。ただしエネルギーの定義の見直しに伴う関連制度の評価の見直しについては、3年程度の移行期間が設けられる見込みです。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「今後の省エネ法について」, p.40
3.省エネ法改正3つのポイント
省エネ法の改正とは具体的にどういった内容なのでしょうか?ここから3つの改正ポイントについてご紹介いたします。
3.1.非化石エネルギーを含むエネルギー全体の使用の合理化
現状の省エネ法では、化石燃料または化石燃料由来のものだけがエネルギー使用量としてカウントされ、削減義務の対象となっていましたが、今回の改正により非化石燃料または非化石燃料由来のものもエネルギー使用量にカウントされ、削減義務が生じるようになります。
非化石燃料である水素やアンモニアなどは海外からの調達に頼っているため、化石エネルギーだけでなく非化石エネルギーも含めたエネルギー全体の使用の合理化を進めることで、エネルギーの安定供給の確保が達成されます。
これまでの省エネ法では、化石エネルギーを非化石エネルギーに転換することも省エネとして評価される仕組みでしたが、改正後では基本的に非化石エネルギーへの転換は省エネとして評価されなくなります。「基本的に」と表現したのは、太陽光由来の電力については、改正前のように0kWhとして評価はされないものの、改正後も系統電力よりは原単位が小さく、ある程度は省エネとして評価される仕組みだからです。
3.2.非化石エネルギーへの転換の促進
非化石エネルギーへの転換は省エネとしての評価は限定的になるものの、省エネ法全体ではむしろ2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、積極的に推進する方向です。省エネ法の改正後には、年間エネルギー使用量(原油換算値)が1,500kLを超える事業者は、非化石エネルギー利用割合をどのように向上させていくのかという、3~5年の中長期的な計画と実績を示す定期報告書を作成しなければなりません。ただし毎年度利用割合を向上させていかなければならないわけではなく、数年ごとに向上させるなどの事業者の創意工夫を認めつつ、これまでの省エネ法同様に必要であれば国が事業者に指導、助言することで実効性を担保するという方向性で検討されているようです。
ここで重要なことは非化石エネルギーがどう定義されるかということです。具体的にはオンサイト型PPAによる非化石電気の調達や再エネ証書の購入などが非化石エネルギーへの転換として評価されるのかということが重要です。非化石エネルギーの定義によって取り組み方は変わってきますので、定義については今後も注目しておきたいポイントです。
3.3.電気需要の最適化
電気の需給バランスによって、1次エネルギー換算係数(1kWhの電気を使用した際のエネルギー使用量)が変動するシステムが構築されます。
具体的には、昼間の太陽光発電量が多い再エネ出力制御時には、1次エネルギーの換算係数(1kWhの電気を使用した際のエネルギー使用量)が小さくなり、需給逼迫時には大きくなるというシステムです。これは電気の需要を最適化するため、すなわち発電電力量が多い時間帯の使用電力量を多くし(上げデマンドレスポンス)、電気の需要がひっ迫した際に使用電力量を少なくする(下げデマンドレスポンス)ことが目的です。
さらに、電気事業者に対して、需給状況に応じた電気料金の整備を求める方向性で検討が進められているようです。そのため、今までのように時間帯・季節というくくりで従量料金が異なるという料金形態ではなく、再エネ出力制御時には安い単価、需給逼迫時には高い単価というような料金形態に今後なっていく可能性もあると考えています。
つまり、需要家にとって、再エネ出力制御時のような安い電気単価時間帯に沢山電気を使うようにシフトすることができれば、電気料金が安くなると同時に、省エネ法上の評価も向上するというシステムが構築されようとしています。
出典:経済産業省 資源エネルギー庁「今後の省エネ法について」, p.33
今回の前編では、省エネ法の概要と省エネ法改正されるスケジュールや3つのポイントをお伝えさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
なるべくかみ砕いて記載しましたが、実際着手することになると苦労されるかと思います。
関西電力では、お客さまへのゼロカーボンを目指して、省エネ法の削減計画から実行に至るまで「ゼロカーボンパッケージ」として提供しております。省エネ法改正に対して必要な取り組みでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
それでは、近日中に後編を掲載するので、是非併せて拝読いただければ幸いです。
※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2022年8月時点の情報に基づき作成しております。