私たちは、世界には、あとどれぐらい温室効果ガスを排出できる余裕があるのかと。
もう少しも余裕がない?
それとも、まだまだ余裕があって、ゆっくりと脱炭素の対策を始めれば良い?
私たち人類社会が置かれた状況を、「カーボンバジェット」という概念から見通していきます。
1. カーボンバジェットとは
地球は、あとどれぐらい温室効果ガス排出できる余裕があるのか
こうした疑問の答えが、カーボンバジェットです。
日本語では「炭素予算」と訳されています。
お買い物の際、まずは自分のお財布と相談し、どれだけ商品にお金を払えるか予算を決めますよね。
私たちは、この予算内に収まるような商品を探していきます。
カーボンバジェットも同様に、地球というお財布に収まる温室効果ガスの予算を示しています。
たとえると、温室効果ガスを溜めるバケツがあり、バケツから溢れないよう管理しているようなものです。(図1)
図1 カーボンバジェットの概念
前提として、地球の気温上昇は過去に排出した温室効果ガスの累積量に比例します。
温室効果ガスは一度排出されると非常に長い時間大気中に留まるため、「累積量」というのがポイントです。
この累積量に対し、気温上昇をあるレベルまでで食い止める上限量が決まります。
この上限量がカーボンバジェットです。
2. 気温上昇はどこまで許容できるのか
カーボンバジェットは、私たちがあとどのぐらい温室効果ガスを排出できるかを考える際の指標となります。
具体的にどのぐらいなのか。
それを知るためには、まず気温上昇をどこまで許容できるかを見通す必要があります。
では、気温上昇はどのレベルに抑えれば良いのでしょうか。
パリ協定には、「世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」と明記されています。
一方、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」にて、2℃と1.5℃ではどのぐらい影響に差がありそうか報告を行いました。
それが契機となり、世界では「1.5℃を目指そう」という機運が高まったことから、現在では1.5℃目標がスタンダードになっています 。
ここで、とても重要な事実に触れなくてはなりません。
「1.5℃に気温上昇を抑制する」とは、とてつもなく高い目標です。
なぜなら、現時点において、すでに世界の気温は産業革命以前に比べて1℃上昇してしまっているのです。
3. 私たちに残されたカーボンバジェットの残量
前述したように、気温上昇はこれまで排出された温室効果ガスの累積量に比例します。
気温上昇を1.5℃に食い止めるには、すでに1℃上昇してしまっている現在からすると、残り0.5℃しか猶予はありません。
ここで、カーボンバジェットが重要になってきます。
気温上昇が1.5℃に達する時の温室効果ガスの累積量がカーボンバジェットです。
人類はもう手遅れなのでしょうか。
それとも、今から脱炭素を頑張ればまだ間に合うのでしょうか。
その手掛かりとして、カーボンバジェットと現在の温室効果ガス累積量の差分を見てみましょう。
IPCC第6次評価報告書によると、2019年時点での累積量は約2兆3,900億トンでした。
そして、気温上昇を1.5℃に抑えるためのカーボンバジェットは、およそ2兆7,900億トンと示唆されています。
つまり、差し引きすると、私たちに許される残りの排出量はあと4,000億トンとなります。(67%以上シナリオ)
(出典:https://www.env.go.jp/content/000116424.pdf ; p.80)
わかりやすくバケツに例えると、図2のようになります。
図2 カーボンバジェットの状況
私たちに残された温室効果ガス排出量は4,000億トン…
これだけでは「まだ大丈夫」なのか「もう余裕がない」なのか分かりませんね。
それを知るために、世界で毎年どのぐらいの温室効果ガスが排出されているかチェックしてみましょう。
GCP(The Global Carbon Project)のレポートによると、2022年における世界の温室効果ガス排出量は約400億トンのようです。
(出典:https://globalcarbonbudget.org/wp-content/uploads/Key-messages.pdf)
4,000億トンの残量に対し、年間排出量は400億トン/年。
単純計算で、わずか10年間でバケツは満タンになります。
つまり、このままでは10年以内に地球の気温上昇は1.5℃を超え、目標を達成することができなくなってしまいます。
図3 10年間でのカーボンバジェット消費試算
4. 人類社会に託されていること
かつて「地球温暖化」と呼ばれていた現象は、今では「気候危機」と言われるようになっています。
カーボンバジェットを俯瞰すれば、それが決して大袈裟な表現ではないことが分かるでしょう。
あと10年間でカーボンバジェットを使い切ってしまい、1.5℃目標が達成できないかも知れないのです。
そのため、2020年から2030年の期間はDecisive Decade -「決定的な10年間」であり、気候危機に対する人類の分岐点となります。
私たちにできることは二つ、年間の温室効果ガスの排出量を抑制すること(回避系対策)、そしてCO2の累積量を減らすこと(除去系対策)です。
このうち、除去系対策の一部は将来の技術革新を待つ必要があります。
したがって、足元では回避系対策、つまり温室効果ガス排出の抑制に取り組んでいくことが重要となります。
そして、温室効果ガス排出抑制の重要手段は、再生可能エネルギーへの転換です。
近年、コーポレートPPAに代表される「追加性ある再エネ」導入が広がっており、カーボンバジェットとも整合した取組と言えます。
仮に、追加性再エネなどの回避系対策により、世界の年間排出量を400億トンから半減させ、200億トンにできればどうでしょうか。
残量4,000億トンに対し、年間200億トンの排出量であれば、カーボンバジェットには20年間の時間的猶予が生まれます。
除去系対策の技術革新には時間が必要です。
足下で回避系対策を徹底的に進めてカーボンバジェットの猶予期間を少しでも伸ばし、決定的な10年間を乗り切る。
そして、来る技術革新の時代に温室効果ガスの累積量を削減、バケツの水を減らしていく。
これこそが、将来世代に向けて、私たち人類社会に託されている使命なのです。
図4 人類社会に託されていること
※本記事は作成者個人の意見や感想に基づき記載しています。
※この記事は2023年12月時点の情報に基づき作成しております。